クライメート・アクション・ナウ!と書かれた弾幕とそれを持つ人たち

ふくしまエネルギー・ヴェンデへ ~エネルギー構造の大転換を目指して~

2015.06.23

東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故から5年目となる今年、原発に依存してきた日本のエネルギー政策を根底から見直すタイミングがここまでだらだらと引き延ばされ、結局、政府は震災以前にずっとすすめてきたような原発や化石燃料に依存する将来の”エネルギーミックス”をまとめました。

一方、気候変動対策も2009年のコペンハーゲンでの会議での合意が半ば失敗し、COP21での国際合意が求められる中、日本政府案として示した温室効果ガスの削減目標は「2030年に2013年比26%削減」という低い目標でした。

こうした中、京都で5月31日に行なわれた気候ネットワークのシンポジウム「Climate Action Now! ふくしまエネルギーヴェンデへ~エネルギー構造の大転換を目指して~」では、在日フランス大使館やドイツ領事館の担当者、そして専門家や福島で活動する方たちをお招きして、現状の共有と将来目指して行くべきビジョンについてディスカッションしました。

●2015年合意に向けて、先進各国の目標とこれからのビジョン

在日フランス大使館 経済部調査担当官 ローラ・コアットさんの写真

在日フランス大使館 経済部調査担当官 ローラ・コアットさん

▼フランス:野心的な目標こそ国家のチャンス
今年COP21のパリ会議に向けて、フランス大使館のローラ・コアットさんは「今回はコペンハーゲンの時のような失敗はしないと思う」と冒頭に語り、その理由は次の3つにあると述べました。

1.2100年までに産業革命前と比較し、地球の平均気温上昇を2℃未満に抑える必要性は、広く認められ始めていること。
2.中国・アメリカといった温室効果ガス大量排出国をはじめ、主要な国が今主導的な立場となり、行動を起こし、新しい合意に支持を示していること。
3.多くの国が国内でエネルギー移行政策を打ち出し、この移行を可能にする技術がどんどん入手可能、また実用可能となってきていること。

フランスでは、ちょうど5月末にエネルギー対策に関する新しい法律が議会で決議されたところで、長期目標としては2050年までに最終エネルギー消費を1/2に削減することや、化石燃料消費を30%削減することなどが盛り込まれたとのことでした。一方、原子力が75%と大きく原発に依存しているフランスですが、これも2025年には50%に削減することも示されました。一方で、再エネを2030年までに32%まで増加するということです。

原発・化石燃料からの脱却と再エネを大きく増やしていく方向性をとり、これがフランスにとってチャンスだとみているということです。
それは、
①次世代に渡す環境を保護し、新に持続可能な世界を構築するチャンスであること。
②国境のない問題に対して、主導的な立場にたてる政治的なチャンスであること。
③光熱費が下がり、国内の雇用が創出されるエネルギー保障に関するチャンスであること。
④低炭素技術やサービスの開発などでの経済的なチャンスであること。
フランスだけではなく、日本にとってもエネルギー構造の転換を念頭においた目標の設定は、日本にとっても同じチャンスになるということを強調されていました。

▼ドイツ「気候変動対策は先を見据えた平和政策」

ドイツ連邦共和国総領事館領事 フローリアン・イェーガーさんの写真

ドイツ連邦共和国総領事館領事 フローリアン・イェーガーさん

脱原発を政治的に決定したドイツ領事館のフローリアン・イェーガーさんは、ドイツ政府が気候変動を最も重要な国際政策、安全保障問題のひとつとして捉えていると述べました。気候変動は世界の平和と安全にとって脅威であること、気候変動のリスクを一国の努力だけで抑制するのは不可能であること、時間との戦いであることとなど、温暖化政策は核拡散防止や人権擁護と同じく、先を見据えた平和政策であるととらえているということです。

ドイツ政府は、COP21が開催される今年が極めて重要なデッドライン、つまり、地球の平均気温上昇を2℃未満に抑えるためのラストチャンスとみなしています。科学者の多くは気候変動による最悪の事態を防ぐためには、国際的合意が不可欠だと考えており、炭素排出量を効果的に削減するための、包括的、野心的、法的拘束力のある協定が必要です。

ドイツでは、温室効果ガスを1990年比で40%削減することを約束し、さらに2022年までに原子力発電所を廃止することを決定。そしてドイツ経済の大部分を支える化石燃料、特に石炭・褐炭への依存からの脱却もしなければならず、三重の課題を追っているということです。

COP21に向けてドイツが期待していることは、
①参加国が法的拘束力のある国際協定を締結すること。
②脆弱な国が気候変動によるダメージに取組むための資金調達や支援の確保。
③全ての締約国が現在から2020年まで、排出削減のために力強いアクションを取り続けること。
だとイェーガーさんは述べました。そして重ねて強調したのは、ドイツは世界のたった2%の排出量しか占めず、EU全体でも世界の排出の10%程度にしかならないため、自分たちだけで闘っていても勝つことができないのだということです。気候変動対策はコストがかかるが、まだ手の届く額であるということ。政治の前向きな姿勢と国際枠組みに向けた連携がきわめて重要なのだということです。

▼日本:エネルギーシステムの転換に向かう出発点とできるか
お二人の話を受けて、名古屋大学教授の髙村ゆかりさんは日本の温室効果ガス削減目標はおどうか、次のように分析されました。日本は、「2005年比で25.4%削減、2013年比で26%削減」という数値目標を示していますが、これはすでに閣議決定している「2050年80%削減」へ達する水準にはなっていないと言わざるをえないということです。
また、IPCC第5次評価報告書で出ているように、エネルギー部門の低炭素化というのが、2100年のゼロエミッション、ないしはマイナスエミッションが「2℃目標」達成には必要だといわれていますが日本における石炭の位置づけが問われているということです。
今、日本の電力は9割を化石燃料に依存しており、これは誰も良いと思っていません。このことは、気候変動の観点だけではなく、エネルギー自給率、エネルギー安全保障の観点、日本の燃料費、そしてマクロ経済、貿易収支等々を考えてもいいことないのであり、持続可能なエネルギーシステムの転換が不可欠であるということでしょう。
今の日本の議論が、確固として低炭素化へ、そしてエネルギーシステムの転換へ向かう歩みの出発点にできるのかどうかということが根本的には重要ではないかと述べました。

●ふくしまエネルギー・ヴェンデへ
「エネルギー・ヴェンデ」とは、ドイツが行なってきた脱原発・脱化石燃料から省エネ・再エネへと移行するエネルギーシステムの大転換で、いまやこのドイツ語が世界共通語になりつつあります。しかし、日本のエネルギー政策や気候変動政策をみるとドイツとは極めて対照的な状況です。
シンポジウムの後半では、いかに日本がエネルギーシステムを転換していくかを考えるために、原発事故で大きな被害を受け、そこから立ち上がるべく市民が力強く動いている福島に着目して「ふくしまエネルギーヴェンデへ」と題して、4人のパネリストからご報告いただきました。

はじめに、福島で市民活動をされている東日本大震災支援全国ネットワーク福島担当の鈴木亮さんと会津自然エネルギー推進機構理事長の五十嵐乃里枝さんからは、福島の現状についてお話いただきました。
鈴木さんは、いわゆる浜通で原発の立地地域であった双葉八町村の話を中心に紹介し、帰宅困難地域、居住制限区域、避難指示解除準備区域に分けられた避難区域では徐々に避難指示解除の動きがあり、戻りたい人は1割から3割、戻らないと決めている2割から多いところで67%、決められない人が1/3程度とモザイク状にあるいうことです。
地域ごととの民間、行政のサポートセンターの存在有無によって市民活動の仕方もかわってくるようですが、一般的に伝えられているよりも地域の人たちが楽しく復興に向けて活動している姿を目にすることが多いという話も印象的でした。

五十嵐さんからは、原発事故をきっかけに会津で始まった自然エネルギーの活動の取りくみについてご紹介いただきました。福島原発事故の傷をなかったことにするのではなく、絶望するのでもない、傷に正面から向き合って乗り越えていくという志を感じます。一方、原発事故のあった夏、ほとんど注目されなかったが集中豪雨の影響で只見川が氾濫をおこしたことがきっかけでダムによる浸水被害が起きたそうです。

この原因が電力会社にあるのではないかとの見方が広がり、東北電力に対して自治体は訴訟も起こしたが今その問題も下火になってきてしまったとのこと。水力発電も大型になると原発と同じ構造の中にあるという話もまた印象的でした。
手に負えない大型電源ではなく、森林活用を考え、木質バイオマスで熱エネルギーを何とか自給することなども考えているとのこと。特に会津は手入れが進ます、山が荒れているので、昨年から山学校をはじめ、きこりの養成も行なっているということでした。

このような地域の取組みがさらに加速化し、地域中心に再生可能エネルギーを大きく増やし、エネルギー転換をすすめていくことが可能とすることができるのか、現状の国の政策の方向けから、そのビジョンを俯瞰すると極めて厳しい状況も浮き彫りになってきます。都留文化大学教授の高橋洋さんからは、日本のエネルギーミックスや再生可能エネルギーをめぐる動向について、現状の課題が指摘されています。

まず第一に、給電順位の問題です。政府の方針では、原子力が第一優先となっていて、ベース電源とされた石炭火力も入ってくる。
そして、その次に家庭用太陽光、商用太陽光、バイオマス、火力と続くのです。また電力会社管内ごとに給電の上限を決めたので、これを超える場合は無制限に出力抑制するということです。
高橋さんは、こうした考え方そのものが古い考え方であり、再生可能エネルギーから動かしていくことで、原発や石炭などをベースロード電源とできなくなっていった欧州の事例に学ぶ必要性を強調しました。

エネルギーヴェンデというにはあまりに乏しい日本のエネルギー政策が浮き彫りになる形となりましたが、地域の力強い動きを止めることなく大転換への着実な歩みとするためにも、市民の声を上げていくことがますます重要になっていくでしょう。

公演中の様子